近衞版「ベートーヴェン / 交響曲第9番」

近衞版は、近衞秀麿が演奏会を行う度に手を加え試行錯誤され作り上げたものであり、同じ楽曲においても様々な近衞版が存在します(演奏可能な形で現存しているのはごく僅かなのですが……)。

特にベートーヴェンの交響曲は全曲に手を加え、その中でも第九は生涯をかけて研究の歩調を緩めることはありませんでした。
近衞版の第九のスコアには1946〜1962年と記されており、パート譜や販売されているCDの録音とも細部が異なる部分があることからも、常に推敲を重ねていたことが伺えます。

音楽評論家の宇野功芳は、近衞版の第九についてライナーノーツにこう記しております。


(近衞版は)《無理をしなくても鳴る様なオーケストレーションの改訂》なのである。だから、《近衞版》を使って、見境なく力演するととんでもないことになる。(中略)そうではなくて、吟味された音でまろやかに演奏すると最高に潤沢な響きが得られる。
(中略)
その良い例が「第9」で、素っ気ないほどの古典的解釈である。
(中略)
ギクシャクとしたベートーヴェンの語法を自然なものに直す努力を傾けているのである。その適否については各人が考えて欲しいと思う。

編成はホルンが6本の木管四管編成にピッコロ、コントラファゴットが加わり、しかも本来4楽章から使用されるピッコロとコントラファゴット、トロンボーン(2楽章の一部あり)が1楽章から使われております。
いわゆる原典版と比較すると大胆に音符が加えられている箇所があります。

ベートーヴェンの研究家であり大指揮者だったワインガルトナーは著作において「もしも四管が使い得ないのならば第九交響曲の上演は見合わせた方がよい」とさえ断言しています。
そして近衞も「<英雄>や<第七>や<第九>のある部分を四管の豊かな響きで経験したことのあるものには、同曲の二管での古式の演奏が、どうしてももの足りなく感ぜられるであろうことはやむを得ぬ次第であるという他はない」と力強く記しています。

一体どの様な第九が鳴り響くのか、来年の2月11日の東京芸術劇場にて、ぜひご体験ください!